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1.先制動物医療研究会設立の目的

先制動物医療研究会 会長 新井 敏郎​

 20世紀後半から、人の疾病構造は大きく変化し、かつて多くの人命を奪った感染症が減少し、肥満、糖尿病、腎疾患、がんなど非感染性疾患(non-communicable diseases: NCD)が増加してきた。21世紀に入り、その傾向はさらに強まり、特に日本では人類史上初めての超高齢化社会となり加齢に伴う NCD の増加に伴う医療費の急増は国の基盤を脅かすほどの大問題となっている。NCD 対策としては早期発見、早期治療が最も現実的な方法である。NCD の発症には環境因子の影響が大きいものが少なくない。特に栄養状態を良好に保つことは発症予防だけでなく重症化予防にもつながる。NCD の予防は発症のリスクを明らかにし、それら避けるために食習慣を主体とする生活習慣を改善し、 必要な場合には薬剤を使用するというのが最も効果的であろう。しかしながら、こうした従来型の対応だけでは集団には有効でも、個々の症状には必ずしも十分ではなく、それを改善するために「先制医療」という概念が出てきた。先制医療は個の予防医学、あるいは精密医療 (precision medicine) を目指す新しいコンセプトに基づく医療といえる。

 先制医療を進めるためには多くの研究が必要となる。基礎的研究としてはゲノミク ス、エピゲノミクスおよびそれらと環境因子との解明が不可欠である。臨床的には個々の疾患の発症前からの予測と介入方法を研究する必要があり、新たなバイオマーカーなどを用いた診断法開発も不可欠である。さらに公衆衛生・疫学研究も重要で、獣医領域では一般的でない定期的な動物の健康診断なども必要となる。また、獣医療では 産業動物も診療対象となるので、人医療、小動物医療とは異なる視点からの疾病予防 対策が必要となる。最新のゲノム編集技術を応用した病気になりにくい牛や鶏の作出なども究極の疾病予防技術として研究対象に加えたい。こうした研究を産学共同で進めることにより新しい動物疾病の診断基準、早期診断法、処方食や薬の開発などに繋げたい。

 「先制動物医療研究会」は、動物を健康で長生きさせるための研究を集約するプラットフォームとなり、産学連携研究を強力に推進することにより獣医学の発展はもとより新たな産業の創出(産学共創プラットフォーム共同研究推進プロジェクト)、さらに医学領域へも重要な知見を提供することにより、世界的な科学の潮流となりつつあるOne Health 福岡宣言(One Health に関する国際会議 2016)に謳われる「人と動物 が健康で安全に暮らせる社会」の実現を目指す。広くライフサイエンス研究の発展の一助となるものと確信する。

2.先制動物医療研究の目指すもの

(1) 早期診断法の開発 ゲノム、プロテオーム、メタボローム解析による疾病の新たな早期診断法の開発、 診断基準の国際標準化を目指す。これら技術を応用した早期診断・治療による疾 病発症予防および重症化予防を図る。

(2) 栄養・飼育管理による疾病予防 肥満、これに付随して起こるメタボリックシンドローム、糖尿病などは、栄養管 理・飼育管理による予防が十分に可能と考えられる。疾病予防につながる栄養・ 飼育管理の基準づくり(処方食、療養食の開発)を目指す。

(3) ワクチンによる疾病予防 がんワクチンを初めとする新たなワクチンの開発・応用を目指す。産業動物では 乳房炎ワクチン、インフルエンザワクチンの開発など。

(4) 分子標的薬による疾病予防 薬効機序の解析を通じた新たな動物用の分子標的薬の開発を目指す。 新薬による発症の抑制,軽症化の実現を目指す。

(5) 多能性幹細胞を応用した疾病予防(再生動物医療の具現化) 多能性細胞を応用した組織再生による動物個体ごとの再生医療(テーラーメード 医療)の開発を目指す。

(6) ゲノム編集技術を応用した疾病予防(抗病性の牛、鶏の作出など)

3.先制動物医療研究の意義

(1) 獣医学への貢献

・ 先制動物医療学、疾病予防栄養学という新たな学問領域の展開による獣医学研究発展への寄与

・ 疾病の発症メカニズムの解明に伴う新たな診断法・治療法の開発が可能になる。

・ 犬および猫用の実験動物の開発を目指す(発症メカニズムの分子レベルの解析)

・ 動物個体ごとの多能性細胞による診断・治療法の開発(テーラーメード医療の実践)

(2) 医学研究へ新知見の提供

・ 人-動物共通にみられる NCD(特に加齢に伴い増える疾病)予防が可能になる

・ いくつかの疾病の発症機序の解明から人-動物共通の診断法・治療法の開発が期待される。

・ 新薬の開発

(3) 社会貢献

・ 診療費削減による飼い主の経済的負担の軽減

・ 人と動物が健康で安全に長生きできる社会モデルの創出